全日本建築士会・『合格への鍵』講座

このブログは当会の建築士講座講師が適宜分担して執筆し、当会建築士講座監修者が総合監修します。

2018年一級建築士設計製図試験の総評

― 従来の課題から一歩抜き出た新傾向の課題 ―

平成30年度一級建築士設計製図試験課題

 本年の課題(健康づくりのためのスポーツ施設)は以下に記すような留意事項から従来の課題に比し、一歩抜き出たともいえる高度な内容の課題となり、また今後の新傾向ともなると考えられるものであったといえます。

重要ポイント1
―本課題の本質的な意味―

本年度の試験課題発表時の本会の「平成30年度一級建築士設計製図の試験の講評」でも記しましたように、この課題は、単なる「スポーツ施設」ではなく、「健康づくりのためのスポーツ施設」となっていることから、この施設が一部の選手育成等を目的としたものではなく、この施設は広く一般の人の健康づくりを目的とした「地域の人々の健康増進のための施設」としての役割を担う、場合によっては地域の社会的施設としての役割を担うものであるとの理解を踏まえて、本課題に取り組むことが第一に重要なポイントとなるといえます。

重要ポイント2
―自由度の高い課題―

2009年の試験内容の見直しが行われて以来、一級建築士設計製図試験における課題条件は、それまでの提示された課題条件のすべてをまとめたものを評価する試験から、課題条件の自由度を高める(課題条件の一部は受験者自身に考えさせる。例えば、必要な室面積の全てを提示せず、相当数の室面積については特記事項から受講者自身に考えさせるものとする。)傾向の内容となってきました。これは、実際の設計においては、予め全てまとめられた条件を単にまとめ、設計するのではなく、諸々の条件については、設計者自身が検討し提案することが重要な設計の要素であることを反映したものであると考えられますが、本年度の試験では、この傾向が一段と顕著となって、課題条件を単にまとめるのではなく、受験者自身が判断しなければならない裁量の余地が従来になく大きい課題となりました。

重要ポイント3
―敷地周辺環境の重視―

近年の試験の課題では、単に敷地内の条件のみについてではなく、敷地周辺環境を重視することも重要な課題条件に含まれることが多くなってきましたが、本年の課題では、敷地周辺の施設との一体的な利用をすることが求められる、従来に比して一段とこの傾向が顕著なものとなり、それだけ、計画の自由度も高い高度な課題条件となりました。

本課題についての以上の重要ポイントに係わる個々の具体的な留意点について以降に記すこととします。

  重要ポイント①
本課題の本質的な意味について

本課題では、課題条件としての利用者の部門としては、スポーツ部門ではなく、「健康増進部門」として提示されていることからも、本課題の施設が単なるスポーツ施設ではなく、高齢者の健康増進等、より幅の広い用途を目的としたものであることは明らかであり、また、要求室として健康相談室、カフェ、コンセプトルーム、ダンススタジアム等の諸室が含まれていることからもこの施設が広く地域住民の健康増進を目的としたもので、本課題の解答としては、この目的に添う計画となっていることが極めて重要なポイントであるといえます。

  重要ポイント②
自由度の高い課題について

本課題では、従来の大方の課題においては敷地条件から敷地に接するどの道路からをメインアプローチとして計画するか、おのずと判断できるものとなっていましたが、本課題では、東・西・南・北のどの側よりアプローチしてもよいという条件となっていることから、従来の課題に比して極めて自由度の高い課題となっているといえます。 

この課題では後述するカルチャーセンター、全天候型スポーツ施設、グラウンドとの一体的利用を図ることから、メインアプローチは西側または北側からとし、他の側からもサブアプローチを適宜、とることが最も望ましいと考えられます。 

また、本課題では、前述のように利用者の部門として、健康増進部門しか提示されていないため、各々の施設の設置階をどの階にするか想定しにくく、受験者の裁量の余地の高い条件といえますが、前述のように本施設が、地域住民の健康増進の場であることを考慮すると、要求室の中の健康相談室、カフェ、コンセプトルーム、ダンススタジアム等の諸室は、1階の入りやすい位置に設けることが望ましいと考えられ、そのことから順次、スポーツ施設としての温水プール、多目的スポーツ室等を2階、3階に設ける計画が想定されてくることとなります。

なお、自由に提案できる室としてのコンセプトルームも以上の主旨から、例えば、地域住民のスポーツを通じた交流の室やスポーツ関連資料展示の室等とすることなどが考えられます。

  重要ポイント③
敷地周辺環境の重視について

本課題は敷地周辺の旧小学校の各施設を再生したものとの総合的・一体的利用を図ることを目的としたもので、正に少子化、リノベーション(改修による再生)等、今日的な社会状況・問題を課題としたもので、従来の課題から一歩抜き出たものと考えることができます。それだけに、本課題の計画では、敷地施設との関係を考慮したアプローチ計画やそれに伴う本施設の1階部分の配置計画が重要なポイントとなると考えられます。 

上記のような基本的な留意点の他、個々の注目される点として、
・課題文がA2用紙による長文、詳細なものであったことにより、従来のものに比して課題そのものをより深く、明確に理解・把握することが一層重要なポイントとして求められるものであったこと。
・予め告示されていた注意事項が試験に際して改めて提示されるなど、従来の試験に比し、これらの注意事項について更に解答に緻密さを求められるものであったこと。
・計画の要点記述においても、本施設と隣地のカルチャーセンター等とを一体的に使用できるようにするために特に考慮したことが、補足図付きに要求されるなど、従来から求められていた要点記述の内容から一歩踏み出した内容のものとなっていたこと等の点が注目点としてあげることが出来ます。

 以上のように、本年度の課題は重要ポイント①②③においても記しましたように、従来の試験の内容に比して新傾向ともいえる内容を含む課題であったといえます。

本会の講座においても、以上の重要ポイント①②③を踏まえた練習課題によるなど、講座の内容の充実に努めたところですが、本年の課題の内容が一級建築士設計製図試験の今後の試験の新たな傾向となって行くことが予測されることを考慮して、更に講座内容の一層の充実を図って行く所存としております。

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30年度 一級建築士 設計製図試験 課題の講評

平成30年一級建築士設計製図試験の課題

課題:「健康づくりのためのスポーツ施設」

 

要求図書

1階平面図・配置図(縮尺1/200)

2階平面図(縮尺1/200)

3階平面図(縮尺1/200)

断面図(縮尺1/200)

面積表

計画の要点等

(注1)

健康増進のためのエクササイズ等を行う温水プールのある建築物の計画

(注2)

パッシブデザインを積極的に取り入れた建築物の計画

(注3)

建築物の外壁の開口部で延焼のおそれのある部分の位置及び防火設備等の適切な計画

防火区画(面積区画、竪穴区画)等の適切な計画

避難施設(直通階段の設置・直通階段に至る歩行距離、歩行経路及び重複区間の長さ、敷地内の避難上必要な通路)等の適切な計画

 

平成30年の一級建築士設計製図試験の課題は、上記のように発表されました。スポーツ施設についての課題は、過去に、平成20年の「ビジネスホテルとフィットネスクラブからなる複合施設」、平成14年の「屋内プールのあるコミュニティ施設」、昭和59年の「健康づくりのための屋内運動施設」等が出題されていますが、いずれも近年の健康増進のための施設の充実が社会的課題となっていることの反映と考えることができます。

 

本年度の課題を考える上での主な留意点として以下のような点を挙げることができます。

 

  1. 本課題の意味

課題名が「健康作りのためのスポーツ施設」となっていることから、この施設がスポーツ競技の選手育成等を目的としたものでなく、この施設は一般の人の健康づくりに役立つ、健康増進のための社会的施設としての役割を担う、場合によっては地域の社会的施設としての役割を有するものであると理解されます。

 

  1. 地域の人々の健康増進の場としての施設

このため、この施設は、単なる身体的なスポーツ施設としての機能を有するばかりでなく、地域の人々の健康増進の場として、スポーツ・健康教室・交流の場等の機能をも併せ持つものとなる可能性があるといえます。

 

  1. スポーツ施設としての機能のための所要室

スポーツ施設としての機能を有するための所要室等としては、概ね以下のようなものを挙げることができます。

  • エントランスホール、フロント・受付

風除室を設け、多人数の利用者のためのスペースを確保し、フロントには受付カウンターを設ける。

  • プロショップ

スポーツ施設で使用する用品を展示・販売する売店

  • 体育館

各種室内競技を行うための天井の高い、大空間を構成する構造計画が必要となり、建物全体の中での建築的な整合性、構造的な整合性が必要となる。

  • トレーニングルーム

ウエイトトレーニングなどの各種の身体運動を行うためのスペースであり、各種運動器具を設置する。

  • エアロビクススタジオ

エアロビクスダンスや体操などを行うために、壁面には大型の鏡を設置する。

  • 屋内プール

プールには、競泳・競技用、遊泳用、医療用などがあるが、一般的に25mの遊泳用プールが多く、気泡浴槽を併設することもある。

また、屋内プールは、天井を高くし、トップライトなどにより、明るく開放的な空間とすることが多い。そのため、屋根の架構には構造的な配慮を要する。

  • 休憩スペース・採暖室(サウナ室)

プールサイドには、休憩スペースを設け、ベンチなどのファニチャーを置く。休憩時に身体を暖める採暖室を設ける場合もある。

  • ロッカールーム(更衣室)・シャワー室

トレーニングルームや屋内プールなどのロッカールーム、シャワー室などは専用に設ける場合と兼用する場合があり、兼用する場合は動線の交差を起こさないように計画する。

  • 便所・パウダールーム

車いすに対応した多機能な便所を、各階の適切な位置に設ける。また、パウダールームを設ける場合も多い。

 

  1. 地域の人々の健康増進の場としての所要室

更に前述のように、地域の人々の健康増進・交流の場等の機能を有する室として以下のようなものが挙げられます。

  • 健康教室(健康増進の知識等を養成するための教室)、交流の場(プラザ)、ラウンジ、カフェ、レストラン等。

 

  1. バリアフリーへの配慮

更に本課題が地域の人々の健康増進の場としての役割を担うものであることからは、幼児や高齢者・身体障害者をも対象とするものとなることも考えられ、このことからは、本施設全体に渡ってバリアフリーに配慮することが必要となることも考えられます。

 

  1. パッシブデザインを取り入れた計画

本課題では、近年の傾向として、平成28年度、29年度の課題でも附帯条件として示されている「パッシブデザインを積極的に取り入れた建築物の計画」とすることが求められています。パッシブデザインは、建築計画により、出来るだけ設備機器に頼らずに、自然の風力等により、建物の環境の向上を図ろうとするもので、近年の環境・省エネルギーへの社会的関心を色濃く反映したものといえます。

 

―合格の鍵となる着実な建築計画力―

本課題では、平成21年度の試験内容の見直し以来の傾向としての建築計画力が特に重要な要素となってきている従来の試験の延長線上にあるとも言えますが、更に従来にも増して様々な視点からの建築計画上の配慮が求められる、受験者の裁量の余地の多い、自由度の高い課題条件となる可能性が高く、それだけに、着実な建築計画力を養成することが、確実な合格を得るための鍵になると考えられます。

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30年度 二級建築士学科試験の講評

 本年の学科試験の内容は、平成24年二級建築士試験内容の見直し以降の傾向の延長線上ともいえる内容で、一部に、過去の問題の出題範囲外からの新規の設問も見られたものの、総じて、大方の問題は、過去の出題範囲内の事項についてのしっかりした知識と深い理解を有していれば正解に至ることのできるものが多く出題されました。但し、その反面、表面的な付け焼き刃的な知識では解けない問題も多く、従来の出題範囲内の事項について、いかに単なる暗記でない深い理解力と着実な応用力を有しているかが、合否を分ける大きな要因となったものと考えられます。

学科Ⅰ 計画
 計画の各分野別の問題数は、建築史2、環境工学8、建築計画論8、建築設備7で、各分野からの出題比率は例年通りでした。おおむね各分野の問題は、既出題範囲内からの問題が多く、比較的取り組みやすいものでしたが、室内側表面結露防止に関する問題や必要な断熱材の厚さを問う計算問題等、確実な理解力を要する工夫された問題が出題されていたのが注目されます。更に、建築計画論では、老人ホームや保育所の計画上の基準面積や車椅子使用者に配慮した設計上の基準寸法等についての着実な知識を問う問題が出題され、更に、建築設備では、用語に関するやや難度の高い問題も出題されたものの、総じて、既出題範囲内からの標準的難度の出題が多く、学科Ⅰ(計画)の問題の難易度はおおむね例年並みであったと考えられます。



学科Ⅱ 法規
 法規の出題分野は、建築基準法とその他の建築関係法とからなりますが、建築基準法20、その他の建築関係法令5で、例年通りの出題比率でした。本年の出題傾向として注目されるのは、特に建築基準法に関する問題で、政令等の規定についての長文の詳細な設問が目立ち、それだけに、詳細な事項についての系統的に整理された理解に基づく、正確な知識の有無が得点に大きく影響するものとなっています。
 また、建築基準法以外のその他の法令に関する問題で、「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」に係わる問題や「特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律」に係わる問題や、また、「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」に係わる問題等、比較的難度の高い問題が出題されていたことも注目されます。総じて、学科Ⅱ(法規)の問題は例年よりやや程度が高いものであったと考えられます。



学科Ⅲ 構造
 構造の各分野からの出題数は、昨年と同様の力学6、各種構造・構造設計13、材料6からなりますが、いずれの分野の問題も、大方の問題は、過去の出題範囲内からの出題で、しっかりした基礎知識、理解力があればおおむね解ける内容の問題でした。ただし、構造の分野は、元来、単なる表面的な記憶だけでなく、理論に対するしっかりした理解力が欠かせない分野であり、特に本年の各種構造・構造設計に係わる問題では、木造・RC造・S造の各部設計や耐震計画において、しっかりした理論に対する理解力と応用力がなければ解けない問題が出題されたこと、更に近年の傾向として、木造の出題比率が高くなる傾向にある中で、木質構造についての問題が前年に続き計3題出題されたことは特に注目されます。なお、材料に関する問題は、おおむね既出題範囲内からの問題でした。以上のように、学科Ⅲ(構造)の問題としては、総じて、既出題範囲内の事項についてのしっかりした理解力と応用力が身についていれば解ける問題が多いことから、着実な理論に対する理解力と応用力が身についているか否かが、得点上の差となるものが多く、難易度はおおむね例年並みであったといえます。



学科Ⅳ 施工
 本年の試験での各分野別の出題数は例年通りで、施工計画・管理・契約5、各部工事18、その他2でした。施工は出題分野が広く、また記憶しなければならないことが詳細な事項も含めて非常に多いのが特徴ですが、施工計画では、近年、出題頻度の多くなってきている環境重視の傾向の一環とも考えられる問題や工事監理の在り方にも係わる請負契約についての問題が出題されたのも注目されます。また、近年、出題頻度の高くなる傾向にある木造に係わる既出題範囲外からの設問を含む問題が2問出題されたのも注目されます。その他の問題でも選択肢に既出題範囲外からの設問を含む問題も多く見られましたが、いずれの問題も既出題範囲内からの選択肢が解ければ、正答に至ることのできる問題が多く見られました。総じて、本年の学科Ⅳ(施工)の問題の難易度はおおむね例年並みであったと考えられます。いずれにしても、施工については、詳細な事項についての紛らわしい設問に対しても正確に解答できるための、広範囲に渡る確実な知識を、現場の経験がない事項についても、着実に整理して身につけておくことが得点のための重要な鍵になるといえます。




●以上から、総じて、学科Ⅱ(法規)の難度がやや高かった以外は、他の科目の難度はおおむね例年並みであったと考えられ、本年の各科目の合格基準点の予測値としては、学科Ⅰ(計画)、学科Ⅲ(構造)、学科Ⅳ(施工)では例年通り13点で、学科Ⅱ(法規)では12点~13点で、合格総合基準点は、例年通り60点となることが予測されます。 近年の傾向として、出題される問題、または問題の選択肢の一部に、既出題範囲外からの設問を含む、いわゆる新規な問題も出題されるようになってきてはいるものの、概して、既出題範囲内の事項についてのしっかりした知識・理解力があれば合格に必要な点を得ることは難しくないと考えることができます。
 但し、近年の問題は、ただ単に表面的な記憶に基づく知識のみでは解けない問題が少なくありません。各科目ごとによってその傾向は異なるもののいかにより深い知識・理解力を有しているか、そして、その上に築かれた着実な応用力を有しているかが重要なポイントとなると考えられます。
 以上から、単に新規な問題に目を奪われた準備や付け焼き刃的な準備ではなく、早期からの計画的な着実な基礎力と応用力の養成が合格の鍵となると考えられます。 

 

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